◆評論家 酒井憲一先生 ◆

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花山劇感想

第17回公演『マッチ売りの少年だった男の結末の最後の幸せ』感想

いつもの奇譚幻想から一転、大正・昭和ロマンを平成にまで昇華した舞台と感じました。

マッチ棒の人情が会場にすすり泣きを波立たせ、観客おたがいが自分の流す涙は池袋の雪になるぞと奇想し合いました。

賢治の妹トシとの「永訣の朝」の詩が、あんかひとつの舞台と、しびれるほどしわがれたソロと楽奏と交差して、中空に聖なるものを呼び続けました。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」 死にゆく日、最愛の兄に、雪を頼んだ妹。

「マッチ売りの少年だった男の結末の最後の幸せ」は、クリスマスキャロルのための特化作品なのでしょうか。

それとも芸術を今後に向けて止揚した新世界なのでしょうか。晦渋奇譚劇へ回帰するのでしょうか。それもよし、ただ、今は雪の(雪野)涙に暮れております。

    平成18年12月23日



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